2015年 03月 23日
ティム・バートンの世界 5 |
バートン監督が最も情熱を注いだ作品に『シザー・ハンズ』が挙げられていました。
作品の舞台には監督が生まれたカリフォルニア州バーバンクの、
何の変哲もない街のイメージがビジュアル的原風景として込められているようです。
主人公エドワードの設定にも表れています。
両手が鋏の人造人間エドワードは近づく者を、
自分の意思に反して傷つけてしまいます。
好きな恋人を抱きしめることもできません。
互いに近づくほど傷つけ合ってしまう、
いわゆるヤマアラシ効果です。
主人公がそんな運命を背負っている背景には、
監督自身の人生に対する不全感、
生きづらさのようなものが容易に見て取れます。
バートン・キャラクターの原風景が、
ここにあるのではないでしょうか。
そう思うと色々なキャラクターが、体中縫い目だらけなのも頷けます。
縫い目は傷の象徴で、
つまりバートン・キャラクターはあらかじめ傷ついている存在なのです。
監督はディズニー時代、口のきけない変人と周囲から思われていたそうですが、
典型的コミュ障エピソードです。
元々アニメを志すような人間にはその傾向がありますが、
監督が実人生で抱えているつらさには、かなりのものがあるらしく、
その点も自分がバートン作品に惹かれる原因かもしれません。
東宝特撮映画『モスラ』をもじって、
世の母親の特質をグロテスクに描いたものですが、
こんな絵を見ると「-ラ」という接尾語が、
欧米でも怪獣を示すものとして、
広く受け入れられている事実に改めて驚きます。
他にきのこの怪物を描いた、
同じ東宝の『マタンゴ』のイラストも展示されていて、
監督の特撮映画好きが伺えます。
『マーズ・アタック!』にはゴジラが登場しますし、
ダダなどのウルトラ怪獣は監督の心の友だといいます。
特に『マタンゴ』はカルト映画の名作ですが、同時にマイナーな作品。
これを知っているということは相当なオタク振りです。
同じ特撮映画愛好家として、親近感を禁じえません。
最後に会場の声を少し。
上の絵のジャックがいる丘の先端の渦巻状に感心している男性がおられました。
確かにバートン監督の絵には、この渦巻きが色々なモチーフとして表れています。
これもまた平面的フォルムの面白さを追ったもので、
たとえば成田亨さんの彫刻的発想とは異質なものです。
渦巻きが何の象徴なのか良くわかりませんが、監督の抱えている生きづらさが、
人生における迷走というか、酩酊として表れているのかもしれません。
それから監督を評して、
これらの作品を描くことで、彼は犯罪に走らずに済んでいるのだろう、
と話していた若い女性がおられたのが驚きでした。
展示の最後は監督の撮った多くのポラロイド写真ですが、
その中には全身に針を刺された赤ん坊の人形など、かなり不気味なものがあり、
そこだけ見ると、確かに猟奇殺人犯のアジトのようなのです。
子供に『ナイトメア・ビフォー・クリスマス』の絵本を買おうとした母親が、
怖くないですか?と店員さんに尋ねている姿もありました。
そんな危険な要素が監督の作品にはあります。
でもその危うさを自覚して作品に昇華しているところが、
バートン作品の魅力なのだと思います。
(マタンゴの画像は東宝映画『マタンゴ』(1963)より引用いたしました。)
by snowpalace95
| 2015-03-23 23:18
| アート
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